受難の年

2016年10月5日更新

 日本はほとんどの河川で禁漁ですが、管理釣り場や北海道へとまだまだ釣り熱が覚めやらないころかと思います。私もそろそろ今年の釣りを振り返る時期がやってきました。2015年から2016年にかけての冬は降雪量が少なく、おまけに気温が高くて雪がどんどん解けていったので3月にはまるで初夏のような天気。モンタナ周辺の河川はどこも渇水で最悪といっていいほどひどい年になってしまいました。そして私の大好きなギャラティンリバーやイエローストーンリバーでモンタナ中を失意に落とすようなことが起こってしまったのです。

モンタナ通信

ギャラティンリバーの被害を伝える新聞記事

 春、雪解けが始まる前に天気もよいのでギャラティンリバーに釣りにいってみようかと思った矢先、一緒に働いているイーエン君が「ギャラティンが大変だ!!」というのです。彼の奥さんは魚類学を研究しているのでそこからの情報が入ってきたようでした。ボーズマンからギャラティンリバー沿いにウエストイエローストーンに向うとちょうど中間地点にBIG SKYというスキー場を中心とした町があります。昔は小規模のスキー場がある小さな町だったのですが、リゾート地として開発が始まり今ではお金持ちが一年に数日滞在するための億単位の豪邸が立ち並んでします。そのリゾート地のひとつの汚水層のパイプが壊れて35ミリオンガロンというとてつもない汚水がギャラティンリバーに流れ込んだのです。私も心配で川を見に行ったのですが、汚水が流れ込んで川は濁り悪臭がしていました。みんな魚を含めたギャラティンリバーの生態系を危惧しながらもただただ雪代ですべてを流しつくしてくれることを祈るだけでした。

モンタナ通信

イエローストーンリバーの閉鎖を耐える記事

 アイダホのヘンリーズフォークは灌漑用にダムが水を放水し続けたので逆に水量が多すぎて水生昆虫が流されてしまったのか水生昆虫のハッチが狂ってしまい、ライズする魚が見られなかったのです。いつも見られるグリーンドレイク、PMDのハッチなどはほとんど無かったそうです。ウェーディングするにも水が多くて怖いほどでした。

モンタナ通信

ボランティアでボートを洗うジェイムス君

 イエローストーン国立公園内ファイヤーフォールリバーやマジソンリバーも解禁当初から水量が例年の半分以下水温は華氏68度で、ホワイトミラーというカディスやベイティスがハッチする時期にもうすでにイエローサリーがハッチしていました。

 こんな状況で幸運にも魚が釣れてリリースしたとしても魚は死んでしまうのではないかと危惧して「もう釣りなど金輪際やめてしまおう」と思っていた矢先、イエローストーンリバーで4000匹以上のホワイトフィッシュが死んでいるのが見かったのです。釣り人には嫌われ者のホワイトフィッシュですが、モンタナのネイティブでとてもデリケートな魚だそうです。寄生虫が引き起こす“Proliferative Kidney Disease”が直接の原因だそうでずいぶん昔にモンタナ州のスミスリバーの支流で、また数年前にもアイダホ州のスネークリバーでもこの寄生虫による病気で大量のホワイトフィッシュが死んでいるのが見つかっていますが、イエローストーンリバーでこれほど大量の被害は前代未聞だそうです。

 モンタナ州は州知事令によりイエローストン国立公園境界線からモンタナ州の中東にあるルーラルという町までのイエローストーンリバーそしてその周辺のイエローストーンリバーの支流でのすべてのレクリエーションが暫定的に禁止になりました。もちろん日本人に人気のあるパラダイスバレーのスプリングクリークなども含まれていました。フィッシングガイド、ラフティングなど川を職場にしていた人たちだけでなく、ホテルやショップなどをふくめると6兆円にも上る大きな損害がでる厳しい決定でしたが、将来を考えるとモンタナの大自然の危機を見逃すわけにはいかなかったのです。

 モンタナ州の自然管理をするモンタナフィッシュワイルドライフ アンド パークがリビングストンでパブリックミーティングを開き200人以上の人が集まりました。私もフィッシング仲間たちもいったい何が起こり、これからどうなっていくか知りたくて参加しました。今年の渇水は歴史上にまれに見るもので、記録によると120年以来だそうです。またイエローストーンリバーの7月の平均水温は華氏70度だったそうでトラウト類が快適に住める環境ではなかったのです。それに加えて今年はモンタナ中が高温渇水で、ギャラティン下流部ビッグホールやジェファーソン、ビーバーヘッド ルビーなどは早くから釣りなどのレクリーエーションを禁止した河川が多く、、イエローストーンリバーに釣り人などが集中し魚たちにプレッシャーを与えたのも一因かもしれません。

モンタナ通信

秋を告げるマホガニーダン

モンタナ通信

ヘンリーズフォークに住む虹鱒

春にリビングストンの人たちと一緒にイエローストーンリバーのごみ拾いをしましたが、イエローストーンアングラーズの御曹司ジェームス君はお店を休んでまでもごみ拾いのためにボートを出してくれた人たちのボートを寒い中きれいに洗浄してくれていました。彼のようにみんな今年もきれいなイエローストーンリバーで楽しく釣りをしたいと願っていたのに本当に残念なことが起こってしまい、一度壊れてしまった自然をどうやって復活させるのか頭を抱えてしまいました。いつもは雪がふるのがいやでたまらないのですが、とにかく雨でも雪でもふって気温が下がってほしいと願う毎日でした。

モンタナ通信

アスペンの黄葉

 そんなみんなの願いが通じたのか、9月はじめの夏の最後のを告げる休日レーバーデイを境に雨が降りだしたのです。冷たい雨がずっと続き、乾ききった大地がそして生き物たちが生き生きとし始めた気がしました。ヘンリーズフォークにいる夫からも「魚が復活だ」という電話があり、寝袋と釣り道具を車に押し込んで急いでヘンリーズフォークに向いました。どんよりとした冬を思わせるような空。もう木々が黄色く黄葉しています。毛糸の帽子に少し厚めの靴下は夏の釣りが終わった証拠です。寒いのでベイティスのハッチは午後になるだろうと土手をライズを探しながら歩き、ついに午後2時過ぎ大量のベイティスがハッチし魚が涌いてきたかのようにライズし始めたのです。あんなに魚がライズするのをみるのは久々で、どの魚を釣ればいいのか迷うほどでした。そして少し下流部を見ると大きな魚がゆっくりと自分のテリトリでライズを繰り返していました。ベイティスのライズとは異なるマホガニーを捕食するライズです。マホガニーは8月終わりから10月初めにハッチするサイズ16番ぐらいの秋を告げるメイフライでベイティスを除くと魚にとっては今年最後のご馳走です。ターゲットをその魚に絞り、魚に気づかれないように細心の注意と最高のキャスティング。3投目、ゆっくりとその大きな虹鱒はレネ ハロップ氏のCDC マホガニー ダンを口にしてくれました。

モンタナ通信

グレーリングのひれはオーロラ色

 先日は違う川へ行きました。その日も冷たい雨とときより吹く北風に期待もなく川についてみると、水面一面ライズだらけ。でもその場所はホワイトフィッシュがほとんどなので釣れてフライをはずしやすいようにとバーブレスフックを確かめ、キャストしてみると。。。一瞬ホワイトフィッシュかと思いきや美しいひれをもったグレーリングが釣れました。以前その場所ではグレーリングがよく釣れてたものですが、ここ数年はまったく見なくなって全滅したのかなあと思っていたのです。隣では夫がこのあたりでは珍しいほどの大きなブルックトラウトを釣り上げました。

 魚にとっては受難の年。どこでどうやって魚たちはこの厳しい状況を過ごしていたのでしょう。動物や魚は大自然が時には人間が作り出す厳しい環境下にあっても何もいわず、ひっそりとそしてたくましく生命をつないでいます。フライフィッシングをしていると、そんな彼らを尊敬せずにはいられません。

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JR水道橋西口にあるフライフィッシングの専門店です。これからフライフィシングを楽しんでみたい方、釣り場の選択に困っている方、ぜひお店へ遊びにきてください。